東京藝術大学に不当労働行為と「偽装請負」の疑い

 東京藝術大学に対する敬意を込めて「最後の秘境」というタイトルを付けた本がベストセラーになったことがありますが、ここで言う「秘境」とは国立大学の中で人権意識が最も遅れた大学の一つという意味です。数年前に一度東京都労働委員会に不当労働行為救済の申し立てが提出され、朝日新聞にも報道されて大きな話題になったことがありますが、その時は雇用の継続で大学が譲歩したため和解で終わりました。2020年10月30日に、再び神奈川県労働委員会に申し立てがされたのを機会にもう一度藝大問題を取り上げたいと思います。

「業務委託」と称して労働者の権利をすべて否定

 東京藝術大学では、専任教員がおよそ200名、非常勤講師が500名以上働いており、非常勤講師は教育の重要な部分を担っています。平成16年4月1日に、国立大学が法人化された際に、これまで一般職の非正規公務員として「任用」されていた非常勤講師はいわゆる「パートタイム労働法」の「適用をうける」(平成16年3月15日文部科学省通知「法人化後における非常勤講師の給与について」)短時間労働者になりました。

 この通知に従って大多数の国立大学では、非常勤講師独自の就業規則又は非常勤教職員共通の就業規則が作られました。しかし、東京藝術大学は、就業規則の制定を怠りました。就業規則の代わりに平成18年3月23日に制定された「東京藝術大学非常勤講師等の業務の委嘱等に関する取扱要項」には労働基準法や労働契約法の適用が認められていません。

 東京藝術大学の非常勤講師は、法人の業務の遂行に不可欠な労働力として事業組織に組み入れられており、使用者の指揮監督のもとで、勤務の時間や場所を決めて働かされ、その報酬は、時間単位の労働の対価として払われ、給与から税金の源泉徴収もされています。その実態は「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」という労基法第9条の労働者の定義に完全に一致しています。

 にもかかわらず、東京藝大は、非常勤講師との契約を「業務請負」と称して、労働者と認めず、労働基準法・労働契約法及び労働組合法上の権利をすべて奪い、労災保険の適用さえ否定しています。このため、東京藝大では「切り捨て御免」の理不尽な雇い止めが横行してきました。

  14年前の2006年月末に、株式会社リーガルマインド大学の専任教員について、第164回参議院・行政監視委員会(2006.4.10)の質疑の中で、吉川春子議員が「請負ではなくて雇用労働者だと言う改善命令が出たという報告を受けております」と公表したことがありますが、いまだに国立大学で、専任教員よりもさらに労働者性の強い非常勤講師を請負扱いしていることには驚かされます。